ヒット投信「通貨選択型の特殊な為替リスク」

ヒット投信「通貨選択型の特殊な為替リスク」

最近の投信の中でヒット投信は「通貨選択型投信」だ。投資対象は投資対象は米国ハイーイールド債、新興国債券などさまざまだが、投資対象国とは関係なく、通貨を選べるというのがミソ。最も人気があるのは、28年五輪開催が決まったブラジルで、通貨選択型の「ブラジルレアルコース」はて一本、純流人額で七一五一億円にも達する。

 

ブームの火つけ役となった野村アセットマネジメント米国ハイーイールド債券投信も、ブラジルレアルの割合が圧倒的に大きい。この「レアルを選択する十とはどいうことなのか?要は、レアルを対象としたキャリートレードということだ。米ドル売り・ブラジルレアル買いの為替予約取引をすることによって、本来の米ドルの為替リスクをレアルの為替リスクへと変換しているのである。ブラジル現地の株式・債券市場へ投資されているわけではまったくない。

 

ここで、米ドルの為替リスクをわざわざレアルの為替リスクに置き換えるのは、レアルが上昇した場合の為替差益の獲得、レアルと米ドルの金利差の獲得を目指すため、とされる。実際、この投信は米国ハイ・イールド債の利回りに、高
金利」通貨レアルの金利相当分を加え、「実質的な利回り水準は四〇%近く」とアピールして募集が開始された。四〇%では、人気を集めたのも無理はない。

 

募集が開始された09年初は、世界金融危機の混乱がいまだ収まらず、米国ハイーイールド社債も、利回りは19.4%と歴史的な割安水準にあった。一方、レアルもリーマンショック直前の昨年8月末から年末にかけて、三割もの下落に見舞われ、国内金利も昨年末時点で20%近くに高止まりしていた。

 

その後、景気回復期待が広がり、リスク資産にマネーが流人したことで、ハイーイールド債の価格も大幅に上昇(利回りは低下)し、レアルの対米ドル相場も年初来で23%上昇した。このファンドの募集開始のタイミングは、まさにドンピシヤだった。投資家は競馬の連勝複式馬券を当てたようなものである。

 

ただし、これまでの好成績は、金融危機後のリバウンド局面だからこその、一時的なものだ。現に、年初20%近くあったレアル金利相当のプレミアムは、八月末には6.9%程度にまで縮小している。募集開始時の「高利回り・高金利」は、将来にわたって持続するわけではない。

 

 

 

 

『新興国通賃』のみに限定される相対取引

通貨選択型投信がうたう「金利」には、さらに警戒すべきカラクリが隠れている。前述のとおり、通貨選択型の売りの一つは「金利通貨と米ドルとの金利差」に相当する為替プレミアムだ。たとえば「蒙ドルコース」でいえば、米ドル売り・豪ドル買いの為替予約取引を行ない、三ヵ月後の受渡日まで豪ドルの為替リスクを引き受ける見返りに、受渡日に受け取る豪ドルには、三ヵ月間の米ドルとの金利差分か上乗せされる仕組みとなっている。これがフォワー・ド(先渡し)取引だ。

 

「ブラジルレアルコース」でも仕組みは同じようでいて、じつは違う。新興国通貨に特有の取引が用いられるのだ。あまり知られていないが、これはフンーデリバラブルーフォワード取引」(NDF取引)といわれるもので、要は、決済に当たって通貨の受け渡しをせず、反対売買による差金決済を行なうと定めめられたものだ。このNDF取引が要注意なのである。

 

 

需給や投機の動きで不利になるNDF取引

NDF取引の対象となる新興国通貨はもともと流動性や効率性が低く、需給などなんらかの影響によって、先渡し価格が金利差を適正に反映した水準から乖離してしまうことがままある。上のグラフを見ていただきたい。大人気のブラジルレアルのNDF取引について、そうした「乖離」を示したものだ。三ヵ月後の先渡し価格とスポット価格から逆算した、レアルの金利(NDF取引で得られるレアル金利相当のプレミアム。インプライド金利)の推移である。ブラジル国内の金利に比べ、レアル金利の変動は大きく、現在はプレミアムがI〜二%程度縮小している。レアルの需要が高まると、NDF取引が割高になる傾向があるためだ。

 

管理相場制の下で強い資本規制が実施されている人民元ともなると、人民元金利か大幅マイナスの局面があることがわかる。先渡し価格に人民元切り上げへの投機的な思惑が織り込まれることによってそうなる。高金利通貨といっても、その金利水準目体が大きく変化し、長期的に持続はしない。しかも、金利差メリットをフルに受けられるわけではない。そんなカラクリとなっているのだ。

 

通貨選択型は「投資信託ではなく、。投機信託」(服部哲也・マイペンチマーク取締役)というしかない。高金利につられて、無頓着に為替リスクを取ってはいけない。